良い切れ味と長く付き合うために – 砥石での研ぎ方
包丁の切れ味を常に保つことは、料理がうまくなるための条件です。ですから、切れ味が悪くなってきたなと感じたら、研ぐ習慣を付けましょう。
包丁を研ぐには、砥石以外に研ぎ器などがありますが、研ぎ器を使う場合は頻繁に研いでいないと、刃先が丸くなりすぎて、良い切れ味を取り戻すことはできません。
砥石の準備
たまにしか砥がない場合は、砥石を使って研いだ方が効果があります。砥石には大きく分けて荒砥石、中砥石、仕上げ砥石があり、荒砥石は大きく欠けた刃先を削り落とすなどの初期段階で用い、中砥石は刃先を出す通常の研ぎに用い、仕上げ砥石は中砥石でできた細かな傷を取るためと小刃止めを行うために用います。一般的にはじめて砥石を揃えるなら、中砥(1000番程度)を揃えておけば充分です。また、家庭用の砥石などでは中砥石と荒砥石、中砥石と仕上げ砥石を貼り合わせたコンビ砥石などもあるので、場合によってはこのような砥石を選ぶのも良いでしょう。
砥石の種類や選び方のコツなど詳しい解説はこちらをご覧ください。
図解:両刃包丁の砥石での研ぎ方
こちらでは図解で両刃包丁の研ぎ方の概要を説明しています。両刃包丁の場合は刃先と包丁の当たる角度を以下に一定に保つかが重要です。
詳細な研ぎ方については研ぎ方の動画をご用意しておりますので、ご覧ください。

砥石を使用する前に水につけ、気泡が出なくなるまで水を含ませてください。

しっかりと包丁を握り、親指で上から押さえつけるようにして包丁がぐらつかないようにしてください。

刃を手前に向け、刃先の方から研いでください。向きは45度程度です。

両刃包丁の刃の表面と砥石の当て方 (割り箸一本程度の隙間が空く)

数回研いだら指で触りながら引っかかりがあれば"刃返り"がある証拠ですので、研ぎを終了してください。

刃先を研ぎ終えたら刃の真ん中を研いでください。数回研いだら、同様に指で触って"刃返り"を確認してください。

最後にアゴの部分を研ぎます。刃先とは若干角度を変え、アゴの部分はあまり鋭利にはせず、鈍角に研いでください。

刃先を向こう側にして庖丁の裏面を研ぎ、裏側は刃返りをとる程度にしてください。研ぐ割合は表7:裏3程度が最適です。

刃全体が滑らかになるように指で触って"刃返り"がなくなるまで研いでください。

仕上げ砥石がある場合には、刃の先端のみがあたるよう角度を持ち上げぎみにし、数回研ぎます。これを小刃止めといい丈夫な刃先に仕上がります。
図解:片刃包丁の砥石での研ぎ方
こちらでは図解で片刃包丁の研ぎ方の概要を説明しています。両刃包丁に比べると、表面は「しのぎ(表面の刃先までのライン)」、裏面はそのまま砥石に乗せて研ぐことが出来るので、幾分か楽に研ぐことが可能です。
詳細な研ぎ方については研ぎ方の動画をご用意しておりますので、ご覧ください。

砥石を使用する前に水につけ、気泡が出なくなるまで水を含ませてください。

しっかりと包丁を握り、親指で上から押さえつけるようにして包丁がぐらつかないようにしてください。

刃を手前に向け、刃先の方から研いでください。片刃包丁は、そのまましのぎから刃先にかけての面をそのまま砥石に乗せます。

片刃包丁の刃の表面と砥石の当て方

数回研いだら指で触りながら引っかかりがあれば"刃返り"がある証拠ですので、研ぎを終了してください。

刃先を研ぎ終えたら刃の真ん中を研いでください。数回研いだら、同様に指で触って"刃返り"を確認してください。

最後にアゴの部分を研ぎます。出刃などの場合は刃先とは若干角度を変え、アゴの部分はあまり鋭利にはせず、鈍角に研ぐ場合もあります。

刃先を向こう側にして、刃の裏側を砥石にピッタリとつけて庖丁の裏面を研ぎ、裏側は刃返りをとる程度にしてください。

刃全体が滑らかになるように指で触って"刃返り"がなくなるまで研いでください。

仕上げ砥石がある場合には、刃の先端のみがあたるよう角度を持ち上げぎみにし、数回研ぎます。これを小刃止めといい丈夫な刃先に仕上がります。

和包丁の裏スキ・裏押しの構造
研ぐ目安はどれくらい?
包丁を研ぐ上で一番重要なのは刃先と砥石の当たる角度です。この角度のコントロールさえできれば研ぎをマスターしたのも同然です。それではその包丁に最も適した角度とはどうすると分かるのでしょうか。
まず、一番最初に購入した際に包丁の刃先の小刃部分の角度つまり小刃部分の幅、これがその包丁の刃先の角度の基準であり、切れ味の性能の基準になります。これ以上に小刃部分の幅を大きく研ぐと鋭角になり、切れ味が優れますが刃先が薄くなり耐久性が落ちます。また逆に幅を狭く研ぐと刃先が鈍角になり、耐久性は上がりますが切れ味の性能は落ちます。一番最初に使用してみて切れ味に満足が行くようであれば、この小刃部分の幅を守るように研ぎ直しを行えば良く、切れ味に満足が行かないようであれば、この幅を大きくとり切れ味重視の刃にすることを考えるとよいかもしれません。ただしこの場合メーカー設定の刃先の角度よりも鋭く刃を付ける事は、メーカーの保証が一切受けられなくなりますのでご注意ください。
また、この研ぐ際の角度で気をつけなくてはならないのは、力の入れ方で包丁を押す際と引く際の角度が変わってしまう事で、刃先が丸くなり、より一層切れ味が悪くなる場合があります。これがいわゆる「しゃくり研ぎ」といいます。一定の力で、角度が変わらないよう両手で固定する事が大切です。慣れないうちはゆっくりと角度が変わらないよう砥石に当てる事を心がけましょう。また最近では刃先の角度を固定するホルダーなどもあります。慣れないうちはこのような道具を使って一定の角度の取り方を身に付けるのもいいかもしれません。
また、刃先が研げているかどうかの基準は、刃先小刃部分に入る砥石の目による傷と、研いだ反対側の刃先に現れる「かえり」と呼ばれる研ぎバリが基準になります。この「かえり」が出れば正常に研げています。
「砥石で包丁を研ぐのはめんどくさい」と考えがちですが、やってみるとけっこう簡単です。是非この機会に覚えてみませんか?
砥石のメンテナンス
砥石も消耗品ですから使っていくうちにすり減っていきます。残念な事に使い方によっては部分的に砥石が減る場合もありそのような状態で包丁を研ぐと刃にゆがみが出てしまう場合もあります。砥石も状況を見てメンテナンスしてあげましょう。砥石の平面の出し方は専用の砥石用の修正砥石を用いて砥石を削ります。修正砥石がない場合は平面が出ているブロック塀などに砥石の表面をこすりつけてもいいでしょう。
砥石の詳しいメンテナンス方法や日頃の保管方法など詳しい解説はこちらをご覧ください。
シャープナーは砥石の代わりにはならない
最近では簡易的に研ぐことを可能にしたシャープナーが数多く出回っており、藤次郎株式会社でも取扱いもあります。しかし、シャープナーの本質は刃先を研ぐことではなく、刃先を荒らすことにより一時的に食材への食いつきをよくするもので、砥石による研ぎ直しの代わりではありません。シャープナーでの研ぎのみに頼っていると、刃先の強度が極端に落ち、刃割れや刃欠けの原因になる場合もあります。普段調理に使用している包丁が切れ味が落ちたと感じた場合に、一時的に切れ味を戻したい場合、砥石に当てる時間がない場合に使用するもので、基本的にシャープナーを使用していても月に1〜2回程度は砥石で研ぐことをお勧めしています。
また、回転式砥石のシャープナーや電動式のシャープナー、水砥式のシャープナーでも基本は同じです。
同じように見えても全く違う刃先の状態
それでは実際にシャープナーで研いだ場合と、砥石で研いだ場合の違いがどれだけあるのか刃先の拡大写真で比較してみましょう。
新品の包丁の刃先
新品状態の刃先は非常に綺麗なことが分かると思います。これは刃付けで数多くの工程をかけて丹念に仕上げているからで、徐々に番手が上がり最終的に布や皮・ビニールなどの専用のバフにより、最終的には刃先の傷が全く無い状態になります。弊社で研ぎ直しを行った場合も同様の刃先になります。是非研ぎ直しサービスをご利用頂くことをお勧めいたします。
刃先が丸まった状態
使用していくうちに徐々に刃先は磨耗していき、先端部分にも日頃の使用による傷が多くなります。刃先が丸まっているので全く切れ味は良くなく、食材の断面も汚く荒れることから、魚や肉など生臭さが際立ってしまう状態になります。また、細かい傷により刃欠けや刃こぼれも発生しやすくなります。
また、この状態になるまでの期間は使用する状況によっても変わってきますが、一般的な家庭での使用で大体1ヶ月程度が目安となります。
ロール式シャープナーで研いだ場合
簡易式のシャープナーでも比較的優れているロールシャープナーで研いだ場合の刃先です。刃先はギザギザでノコギリのようになっています。一時的にこのノコ刃の効果で食材への食い付きが良くなり、切れ味が良くなった錯覚に陥りますが、実際刃先は痛んでおり、長く使用すると一層刃先が丸まっていきます。ロール式シャープナーは交差式のシャープナーに比べ、砥石への当たり方が砥石で研いだ時と同じ方向になることから、交差式に比べ効果が高くなりますが、砥石の角度が決まっているため、場合によっては刃先に砥石が当たらない可能性があり、自分の包丁の角度と砥石が合っているか確認する必要がある場合もあります。
交差式シャープナーで研いだ場合
砥石が交差しこの間に刃を差込み研ぐ方式のシャープナーは構造も簡単なことから、比較的安価に手に入ります。
しかし、写真を見ると分かるように横方向の傷が多くなっており、また、研ぎによるバリがそのまま残っています。刃先部分のみしか砥石が当たらないため、一方的に刃先の薄い部分のみが削り落とされ、より一層刃先の丸まりが進み、刃先に段差が発生し、切れ味はさらに悪化します。刃先角度の設定が鈍角な包丁などには使用できますが、切れ味に優れる包丁は切れ味が悪くなるだけでなく、包丁自体を痛める結果になるため使用しない方が良いといえます。
中砥石(#1000)で研いだ場合
砥石で研ぐと刃先の傷が細かくなっていることが分かります。簡易式シャープナーなどに比べ刃先の全体に対して砥石を当てることができることから、刃先全体をくさび形にすることができ、きちんとした刃先が仕上がります。一般的な家庭で使用するのであれば、中砥石で研ぐだけで良い刃が付いていることが分かっていただけると思います。
仕上げ砥石(#4000)で研いだ場合
仕上げ砥石は、中砥石で研ぎ直した時にできた細かい傷を綺麗にするだけでなく、包丁の刀身の構造のページでも解説した通り、小刃を付けることにも用います。この小刃は刃先の強度を上げる役目を持っており、中砥石のみで仕上げた刃先よりも永切れする包丁に仕上げられます。同時に刃先の傷も少なくなるため、刺身などを切った場合の切断面も綺麗になることから、よりおいしい料理を仕上げることが可能になります。
切れ味の調整を行う研ぎ棒(スチール棒)
研ぎ棒(スチール棒)は、食肉加工の現場などで主に用いられている研ぎ器です。使い道としては刃先に脂が付いて、切れが悪くなったときに、脂を取り去ることや、刃先の修正を行うために使用するプロ用の道具です。研ぎ棒での研ぎは、コツがあり難しく、また切れ味が悪くなるたびにこまめに研ぐことができないと、効果が発揮できません。研ぐ場合はスピードよりも、研ぐ角度の正確さの方が大切です。
また、元々ヨーロッパで主流になっていた包丁の研ぐ方法であり、ステンレス製の包丁が主体のヨーロッパなどの海外製の包丁をはじめとする硬度の低いステンレス製包丁には研ぎ棒での研ぎに合っており、多少研ぐ事は可能ですが、ハガネ製包丁の場合は硬度があわず研ぐどころか基本的に刃先を痛める原因となるため、お勧めしていません。基本的に砥石に当てて研ぐことの代わりにはならないので、包丁の切れ味を一時的に戻すためのものだと考えた方がいいでしょう。もちろん食肉加工の現場の職人の方も研ぎ棒で脂を落としたり一時的な切れ味を良くするための刃先の修正に用い、作業の終わりには必ず砥石での研ぎを併用しています。
スチール棒の研ぎ方図解

包丁は、スチール棒に対して常に、約20度の角度に保ってご使用ください。この角度が常に変わらないように気をつけてください。

スチール棒を左手に包丁を右手に持ちます。包丁をスチール棒に当てて、刃元から刃先の方に向かって、上から下ろすように引いてください。

包丁をスチール棒の反対側に当て、もう一方も2の作業と同じように研ぎます。角度を変えず2〜3の作業を5〜10回繰り返します。
スチール棒の研ぎ方動画 (DICK社公式動画)